クラスの隅でいつもみんなから隠れるようにこそこそしていたメガネ。
正直以前のオレはニコのことを気にも留めていなかった。
だってその頃はまだ男子の制服を着て、男子として生活して
いたんだし。ただ普通のクラスメイトとして、普通の接し方を
していただけだ。

だけどニコはそんなオレが好きだったと言った。
みんなが半陰陽のニコを特別扱いするなか、普通に扱って
くれたのはオレ一人だったから、と。

オレの本能的な欲望を未成熟な女の部分でせいいっぱいに
受け止めながら、大丈夫だとニコは微笑んだ。
…どうしてだよ。オレはお前が好きになるような立派な奴
なんかじゃないのに。

いいさ、お前がそれでいいと言うなら…
できる限りの力で、オレはニコを守ってやる。

次の朝、目を覚ますと班長の姿がなかった。
あわてて小屋を出るとむこうからいっぱいの白い花を抱えて
やってくる姿が見えた。
班長はそこにすわりこんで不器用な手付きで花冠を編みはじめた。
「結婚、しよう」
彼はできあがった花冠を僕にかぶせ、手をひいて丘の上まで
連れて来た。クラスメイトや先生のお墓があるところだ。

「みんなの前で誓うよ--- オレは絶対、お前のことをひとりにしない」

僕たちは、白い花の香りに包まれて誓いのキスを交わした。

--- あれから何年が経ったのだろう?
ここには時計もカレンダーもないから、今日が何月何日か、いや
何年なのかさえ分らない。けれどそんなことはさしたる問題じゃ
なかった。
僕たちの娘は確かに成長しているし、目を覚ますたび重くなるお腹は
着実な時の経過を報せてくれている。
思えば僕たちはどれほどのいらない物に生活を支配されて
いたのだろう?

よく晴れた日、僕と班長は娘をつれて丘まで来ていた。
海風がとても心地よく髪を撫でる。
「ママ、とりさんー」
ふいに娘がはしゃいだ声をしながら空を指した。
見上げるとそこには小型の飛行機が一機、そう高くないところを
飛んでいた。
何年もの間待ち望んでいた飛行機の影。いま思いきり合図をしたら
気付いてくれるかもしれない。そうすれば、班長は街へ戻って
また学校に通えるし…僕もまたもとどおりの生活に………
(…………………)
僕は知らず知らずのうちに幼い娘をぎゅっと抱き締めていた。
しばらく無言のまま空を見上げていた班長はやがて
にっこり笑って娘の頭を撫でた。
「本当だ、大きな鳥だな。あんなの見たことないよ、なあニコ?」
僕に向けられた班長の---夫の瞳は限り無く優しくて。
「…そうだね。大きな鳥……海を越えて飛んでいけるんだろうね」
「あ、見えなくなっちゃったー。とりさん、ばいばーい」
無邪気な顔で手を振る娘。その姿を眺めながら、僕と夫は
こっそりと手を握りあった。

僕たちは…………この島で、生きて行く。

+マエ+ +モドル+

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